揺られる煙

 

 

 

「同じ波は二度と来ない」ということについて考えた。

それは、「取り返しのつかないこと」について考えることでもあるかもしれない。

  

エレベーターがマンションの15階にたどり着いた。左脇に半分に折った新聞を抱えていた。いかにも冷たそうな廊下を歩いていた。

ポストが「ポスン」と音をたてていた。新聞を入れていたのだ。

左手を眺めると、真夜中の東京の街。水族館の水槽みたいな景色が拡がっていた。黒い空間のなかにまばらな赤い光。はたまた青い光。クラゲがいそうな気がした。月明かりが、夜の街をぼんやりさせていた。

 

配達終わりのこと。

「おつかれサンシャイン池袋」と、喫煙所で座り込んでケータイを眺めている友達にふざけながら話しかけた。

「う、うん?」みたいな反応。

そう、スベったのだ。

「サンシャイン池袋っていうか、サンシャイン”シティ”じゃなかった?」と言っていた。

「まぁでも、サンシャインでも間違いではないよね」と言っていた。

タバコの煙がゆっくり舞い上がっていた。

 

きのう、『きみと、波にのれたら』という映画をみた。

フツーに三流映画だったけど、フツーに面白かった。

映画の内容とは全然関係ないけど、波について考えていた。

 

「同じ波は二度と来ない」ということについて考えた。

 

同じ波は二度と来ない。

波に同じものはない。

同じように揺らいでいても、実は、全く同じものは何一つない。

そういう考え方がある。

 

それは、一度「見逃した波」は”もう二度と見ることができない”ということでもある。

そのときその瞬間に現れる波は、「唯一無二」なのだ。

 

そして、全く同じ波がないということは、「新しい波」がいつだってそこにあるということでもある。

「もう二度と現れない波」と、「新しい波」がいつでも存在するということ。

 

よくわからないけど、そういうふうに考えると、一瞬一瞬を大事にして生きようと思えそうだ。

 

 

タバコの煙。

今朝の友達の吸っていたタバコの煙を思い出していた。

 

今朝のタバコの煙も、風に揺られていた。

揺られながら、空に向かって昇っていた。

新しく何かを始めるみたいに、風に揺られながら、空に向かって舞い上がっていた。

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