虫よけスプレー

2020.09.16 

 

 

夕刊が終わって自転車で家に帰りながら、「今日は帰ったらすぐに荷物をまとめ直してそのまま出かけよう」と思った。

パソコンやら画板やらをバッグに詰め込みながら、そういえば明日はゴミ出しだなぁと思い出した。

ゴミ出しに備えてペットボトルとプラスチックゴミをゴミ箱から取り出し、袋の口をしばってドアの近くに置いた。

これで明日の朝は忘れなくて済む。

ゴミを出し忘れ、それが溜まっていく不快感を貯めこまなくて済む。

 

玄関のドアを開けて外に出て自転車の鍵を開けながら、「どこの公園に行こうかな」と考えていた。

カフェに行くより公園に行きたいと思った。

カフェに行くとついつい余計な飲み物と余計な食べ物を口にしてしまうから、頭の中の選択肢から早々に弾いた。

 

公園で作業をすると虫が寄ってくる。

蚊取り線香の携帯できるものとかってないのかなぁと思ってAmazonで調べたら、それらしきものがあった。

けれどAmazonだと早く届いても明日だ。

「今すぐに欲しいなぁ」と思って、とりあえず薬局に行ってみることにした。

きっとポータブルな蚊取り線香はないだろうと思ったけれど、なかったら虫除けスプレーでいいやと思った。

とりあえず今日の「アクティブな気分」を守りつつ、ある程度の虫対策になればOKだと判断した。

 

頭の中にゴミが溜まっていくと判断力が落ちる。

判断力が鈍くなって行動できなくなる。

ここ数年はそれでもいいやと思って、「とりあえず考える」を優先して生活していたけれど、そういうスタイルはもう潮時だなぁと感じている。

パパッと判断して随時ゴミ出しをしながら動かないと腐臭がたまる。

頭から沸き出る腐臭目掛けて、虫みたいな思考が寄ってくる。

ブンブンブンブンうるさい思考。

頭の中にこそ「虫よけスプレー」が必要だ。

 

太陽が落ちたあとの薄暗い目黒通りを自転車で下った。

風が体に吹きつけていた。

下らないものが流れ落ちていくみたいで、すごく気持ちよかった。

 

ちょっと遠回りをして、それから武蔵小山に着いた。

建物の2階にある薬局に行こうと思ってエスカレーターに乗ろうとした。

すると目の前のおばあちゃんと手を繋いでいた女の子がエスカレーターの前でたじろいでいた。

ぼくとその後ろにいる人の「エスカレーターに乗ろうとする流れ」がつっかえた。

女の子はどこか不満げな顔で、結局エスカレーターに乗るのを断念した。

エスカレーターから遠ざかるように二人は後ろに下がった。

おばあちゃんは申し訳なさそうに頭を下げていた。

 

「別にいいのにそれぐらい」と思いながら、「むしろ微笑ましいですよ」という気持ちを込めて、微笑みながらおばあちゃんに頭を下げ返した。

それからエスカレーターに乗った。

「後ろの人」がどう思ったのかちょっと気になったけれど、「まぁ別にいいかな」と思った。

 

 

 

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