美濃焼

2022.09.19

 

 

 

夕刊が終わってブックオフに行った。

駐輪場に自転車をとめて店の中に入り、新書のコーナーをザッと眺めたけれど探していた本はなかった。

すぐに店を出て近所のスーパーに向かった。

 

駅前のスーパーの入り口の近くに「出店」みたいなものがあった。

いつもなにかが並んでいる。

「地方の名産品」とか「手づくりのアクセサリー」とか、”人間味”を売りするようなものがだいたい並んでいる。

今日は「美濃焼」だった。

並んでいる陶器を見たときに、先月に行った五反田の中華料理屋のことを思い出した。

 

たしかその中華料理屋はビルの6階ぐらいのレストラン街にある店で、その店で出されたお茶の入った陶器のコップがつよく印象に残っている。

そのときのぼくは「地球に飽きたような気分」で、「なにもかもどうでもいいや」とまでは思ってなかったけれど、なんだか投げやりな気分だった。

 

けれど、麻婆茄子を食べた後に暗い銀色っぽい陶器で少し薬味のするお茶を啜っていると、投げやりなどんよりとした気分に晴れ間が差すような心地になった。

お茶も美味しかったのだけど、その陶器の「存在感」というか雰囲気のようなものに癒された気がした。

ちょっと重みのあるコップの、その「重み」には、目には見えない美的な「何か」があると感じた。

 

スーパーに入って今日のご飯は何にしようかなぁと考えて、体をキュッと絞るようにしながら少し意識を研ぎ澄ました。

自分の体が欲しているものを、なるべく”深いところ”で欲しているものを、食べようと思った。

野菜コーナーの前を歩いていると大根が目に入ってきて、そこで何かが反応した。

去年の冬、引っ越す前の家で「ブリ大根」を食べていたときの感覚が蘇ってきた。

とりあえず大根とブリをカゴに入れた。

 

大根とブリの入ったカゴを片手に持ちながらスーパーの中を歩いて、「ブリ大根にするのはいいけどまだ季節は夏だぞ」と思った。

今日も気温は30℃近かった。

季節に捉われているのだろうか。

「別に夏にブリを食べてもいいでしょ」と、自分を説得するようにワザとらしく頭の中で言葉にして、買い物を続けた。

 

「豆乳ヨーグルト」と「キャベツの千切り」をカゴに加えて会計を済ませたあと、スーパーを出た。

すこし歩いて、さっきの「出店」の前で足が止まった。

買い物をしながら、意識の片隅で「コップを買おう」と思っていたみたいだ。

 

暗い銀色のコップが瞬時に目に入って、「これにしよう」と思って手に取った。

そのあと、別のコップも見てみた。

すると暗い銀色のコップの近くに並んでいた茶色と白のコップもいいなぁと思った。

どっちがいいんだろうと頭で考え始めて、ちょっと気持ち悪くなってきた。

何かを選ぶときに頭で考えると気持ち悪くなる。

「気持ち悪い気分」からはやく解放されたくて、結局最初に手に取った暗い銀色のコップを店のおいちゃんに渡して会計をした。

 

 

今日の夕刊のとき、内田樹さんと春日武彦さんの『健全な肉体に狂気は宿る』を読みながら、「原因と結果」について考えた。

「物事には必ず決定的な原因があり、目の前にある結果はその原因のせいなのだからその原因をどうにかすれば全てが解決する」みたいな考え方が苦手だ。

このオーディオブックを聴くと、「原因と結果」についての考えが言語化されていて、なんで自分がその感じが苦手なのかが、部分的にだけどわかった気がした。

わかった気がして、気が楽になった。

 

それでふと思ったのだけど、自分が話すときに「原因と結果」で話してしまうことがよくあって、その後はだいたい後悔してる。

喋り終えたあとに「なんだかスッキリしないなぁ」と思うことがよくある。

 

「原因と結果で語るのではない語り方」の方が心で喋ってるって感じがする。

でも、それは必ずしも「不合理」な話し方ではない。

それは言葉が持つ「合理性には収まらない合理性」みたいなものが滲んでるって感じだ。

表面的なところでは「不合理」に見えるのだけど、深層では「合理的」になっているような感じ。

 

言葉にできないことをあえて言葉にしようとすると不合理なかたちになったりするけれど、それでも聴いている側を納得させるような話や読んでる側を納得させるような文章があって、そういうものには語っている本人にしかわからない「深層の合理性」みたいなものがあるんじゃないかなぁと思った。

その「本人しかわからない合理性」は他人にとっては「不合理」で、言ってみればいくらでも「論破」なんてできるのだけど、表面的で合理的な頭を鎮めて話を聴くと、不合理な話でも合理的な「何か」が伝わる。

その「不合理の合理性」みたいなものが感じられることがあるから、人の話を聞くのはやっぱり面白いなぁと思う。

 

 

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