波の音

 

 

 

5時にアラームが鳴った。

5時半すぎの日の出に合わせて、きのうの夜にアラームをセットしておいた。

沖縄にきて3日目の朝だった。

ふかふかの布団のすぐ横に窓があった。

まだ外は暗いけれど、光が差し込んできそうな気配があった。

 

海が見える窓とは反対方向にある洗面所で顔を洗っていた。

窓の外は木が生い茂っていた。

窓の外の木々を眺めながら、ふと考えがよぎった。

「オレはなんで今ここにいるんだろう? なにしに来たんだっけ?」

 

歯を磨きながら、本とカメラとヘッドホンをカバンに入れた。

準備OK。

階段を降りて、砂まみれのスリッパをはいてドアの外に出た。

 

10メートルもない場所にあるビーチ。

宿主の陽気なアメリカ人のおっちゃんがつくった階段。

その階段を登って浜辺の堤防を超えた。

砂がスリッパに入ってくる。

この感覚にはまだ馴染めない。

けれども馴染めないなりの心地よさがあった。

馴染めないときには、馴染めないなりの心地よさがある。

それは「何かの予感」のような心地よさだ。

 

海の声がする。

ザー、という音。

いろんなものが混じった音。

薄暗い浜辺には先客がいた。

一人のおじさんと一匹の犬が散歩していた。

波打ち際に近づいて座っていると、おじさんと犬が近づいてきた。

「おはようございます」という言葉が、波の音と重なった。

 

太陽が昇ってくるまで、ボーッと海を眺めた。

なんにもなかった。

なんにもなくて、なにかがあった。

なにかがあるのはわかったけれど、それがなんなのかはわからなかった。

わからなかったけど、心地よかった。

 

日の出をしばらく眺めたあと、コインランドリーに行った。

洗濯機をまわしている間、近所の商店にいった。

お土産のちんすこうと、後でもう一度ビーチでぼんやりするときのお供に、コーヒーと米粉のクッキーをかった。

 

小さな町の小さな商店。

足りないものがたくさんあるような気がしたけれど、これで十分だと言わせるような雰囲気。

「何が足りないの?」と聞かれれば、答えに困ってしまう。

 

もういちど海に行った。

途中で宿主のアメリカ人のおっちゃんに会って、食べ物と飲み物をもらった。

サワークリームの乗ったパッションフルーツ、どら焼き、柑橘系の味がするアイスコーヒー。

貰い物と買ったものを、浜辺にあるアメリカ人のおっちゃんお手製の木のテーブルに乗せた。

朝日を浴びながら海を眺めて朝食。

暑くて、酸っぱくて、甘くて、苦くて、気持ちよくて、冷たくて。

 

色んなものが混じっていた。

 

 

 

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