2022.09.24
その全体を———つまり意識的な知識を———取り戻すためには、ずいぶんと瞑想もし、頭の中のものを吐き出しもしなきゃなるまい。でも、その気になればできないことはない。思いきって広く自分を開け放せばいいんだ
『テディ』 J.D.サリンジャー
朝刊が終わったあとセブンイレブンで「ゼロサイダー」を買って公園にいった。
カメラと文庫本を通勤前にカバンに詰め込んでいたので、公園に行く準備は万端だった。
最近ずっとharuka nakamuraの『Nujabes PRAY Reflections』を聴いている。
めちゃいいアルバム。
バイト先と家のあいだにある池のある公園に向かう途中もずっと聴いていた。
Nujabesが愛した鎌倉の海岸線を眺めるかわりに、池を眺めながら少しボーッとしようと思った。
公園に着いた。
すこし自転車を押して園内を歩いた。
自転車を駐める場所に向かっている途中、20歳ぐらいの若い男女の二人組とすれ違った。
カップルではなさそうだけど、男女の仲ではないとも言えないような、そんな微妙な雰囲気が漂っていた。
自転車を駐めたあと、池のほとりにあるベンチに座った。
池の水は深緑に濁っていた。
鯉や鴨が水面でバシャバシャしていた。
彼らは何かに抗っているようだった。
静かな朝の、静かな住宅街の、静かな公園の静かな池。
そこには何か殺気立ったものが蠢いていた。
濁った水が波を打って、水面がきらきらひかっていた。
ベンチに置いた黒いバッグのポケットから文庫本を取り出した。
サリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』。
目の前の池の、あの鯉やあの鴨を眺めるように、静かに言葉を追いかけた。
隣のベンチの下には、ビールの空き缶とワインの空き瓶が並んで置かれていた。
みんな何かに酔っ払って、そして何かを”空っぽ”にしてどこかへ去っていく。
ゴールデンレトリバーと女の人がベンチの後ろで散歩をしていた。
彼女たちの前から歩いてくるおじちゃんとおばちゃんが彼女たちに話しかけていた。
「今日も早いねぇ」と言っていた。
ぼくは時計を眺めた。6時15分だった。
最後の短編『テディ』を読み終えて、文庫本をバッグに仕舞った。
そしてカメラを取り出した。
池を囲うフェンスに身を預けながら、近くにいる鯉に焦点を合わせた。
何かを吸い込もうとするみたいに、大きく口を開いている。
恋に恋する女みたいな鯉だ。
鯉を適当に撮ったあと、空をみた。
今日は空も濁っていた。