(7) のれん

 

 

 

 

おはようございます。

いま、登別温泉にいます。

こっちにきて約2週間が経ちました。

なかなか愉しい日々を過ごしています。

 

部屋の窓の外には、山が見えます。

おとといぐらいから急に紅葉が色付いてきて、山が赤く染まりつつあります。

毎日山の情景に癒されています。

また、目の前には川も流れていて、部屋の中にいても、ずっと川のせせらぎが聴こえます。

 

今朝、軽いランニングをしたあとシャワー浴びて、窓の外の景色をすこし眺めていました。

明るくなった空に、月が残っていました。

赤い山と青い空に残った月を眺めていると、「今日もいい日になりそうだなぁ」と思いました。

 

それでは、今日は登別温泉の紅葉と共に貴方の幸福を願います。

寒さも増して体調を崩しやすい季節でもありますが、どうぞご自愛くださいませ。

 

 

 

 

何も無い場所だけれど

ここにしか咲かない花がある

心にくくりつけた荷物を

静かに降ろせる場所

 

ここにしか咲かない花』 コブクロ

 

 

 

「目に見えないもの」について考えた。

 

 

白老にある『Cafe結』というところに来ていた。

半年前にこの辺を旅していたときにも寄ったカフェで、とても居心地が良かったのを覚えていた。

店のなかにはオーナーであろう凜とした雰囲気の女性と、制服をきた中学生ぐらいの男の子と女の子が一人ずついた。

 

黒い皮の椅子にすわった。

見た目はすこし硬そうなのに、すわってみると思ったりよりもお尻が沈み込んだ。

思ったよりもずっとフカフカで柔らかい椅子だった。

 

「目で見るだけじゃわからんことばっかりやな」とかなんとか思いながら、綺麗なしわのよった品のある佇まいのメニュー表を手に取った。

 

  

半年前に来たときは、ウポポイに行く予定だったけれど、そのときウポポイは休館日だった。

”行き当たりばったり”で行動して失敗することがよくあって、半年前も行き当たりばったりで行動して「失敗」した。

だけど本心ではそれを「失敗」だとはあまり思っていなくて、何事も行動しなきゃわからないことばかりなんだから、「とりあえずやってみる」ことが大事だ。

今もそう思っている。

 

ただ、「とりあえずやってみる」ことは大事だと今でも思っているけれど、それは「後先のことを考えなくてもいい」というわけではもちろんなくて、「先のことを考えて計画をたてて行動する」ことももちろん大事だ。

でも、僕の中には「とりあえずやってみる=行動」と「先のことを考える=思考」を分け過ぎる部分があって、”二者択一的な構造”にはまり込むことが結構ある。

自分のなかにあるやっかいな癖だ。

好ましい癖だとはとても思えないから、この癖をすこしずつ落としていこうと意識している。

二者択一的な思考から離れることを意識して生活している。

 

半年前の出来事を思い返したりしながら、半年前にもきた居心地の良いカフェで、自分のなかにある「悪い癖」がすこしは改善しただろうかと考えていた。

居心地の良いカフェのふかふかの椅子にすわって、自分と向き合ってみた。

 

ふかふかの椅子にすわってメニュー表を眺めていると、オーナーの女性がそばに寄ってきた。

彼女は「今日は中学生の二人が職業体験できているので、そのふたりに注文していただいてもいいですか?」と僕に言った。

制服を着たあのふたりはオーナーのお子さんだと、勝手に想像していた。

だけど、ちがった。

 

  

白いカッターシャツを着た男の子に「酵素玄米のおにぎりセット」と「ムーンミルク(豆乳)」を頼んだ。

男の子は緊張しているわけではなさそうだったけれど、どこか動きがかたかった。

注文をおえると、”ちょっとかたい感じ”で「ありがとうございます」と男の子が言って、ぼくも「ありがとうございます」と返した。

“ちょっとかたい感じ”で、「ありがとうございます」と返した。 

 

ふかふかの椅子のすぐ隣には本棚があった

しばらく本棚を眺めた。

 

しばらく眺めて、なんとなく一つの本にピンとくるものがあった。

Dayaさんという人が書いた『日常のなかのワールドワーク』という本。

「葛藤にみる希望と勇気」という副題になんとなくピンときて、「茶色の落ち葉」の装丁にもなんとなく惹かれるものがった。

 

パラパラとめくってみた。

フォトエッセイだった。

アーノルド・ミンデルという心理学者が唱えたプロセスワークを、自身の体験を踏まえて”柔らかい言葉”で紹介していた。

やわらかい言葉と、あたたかい画だった。

 

しばらくパラパラとページを繰っていると、なぜか『星の王子さま』の有名なフレーズがあたまに浮かんだ。

 

「大切なものは、目に見えない」

 

ふと、あたまに浮かんだ。

このフレーズがあたまに浮かんだとき、「何か」の気配をかんじた。

 

お店の外から”カラカラー”という音がしてきた。

ハッとした。

 

お店の玄関には、引き戸の透明なガラスの扉があった。

透明なガラスの扉のむこうで、白と紺の縞模様の「暖簾」が風におされて反り返っていた。

何にも同じることのないような、優雅なうごきだった。

 

何にも同じることのないような暖簾の向こうに、アスファルトの道路があった。

車通りのほとんどないアスファルトの道路の隅っこで、落ち葉が風に吹かれていた。

茶色い落ち葉が風に吹かれてアスファルトのうえを転がって、”カラカラー”と、擦れるような音を響かせていた。

居心地の良いカフェに、神妙な気配が漂ってきた。

空は曇っていた。

 

「何か」に気づきを促された。

そう感じた。

フカフカの椅子のうえで「何か」を諭されているような感覚になった。

 

すこし息をとめた。

息をとめて、目を瞑った。

目を瞑って、意識の微細な領域に入っていった。

 

旅のはじまり。

 

 

秋の風。

乾いた香り。

やわらかい肌。

麦のような。

木枯らしのような。

茶色の感触。

肌色の温度。

 

掌。

手のひら。

指の関節。

骨の分節。

指紋の凹凸。

指先の曲線。

 

曲線。

緩やかに。

しなやかに。

弓のように。

闇の中で。

息を潜めて。

秋に留まり。

冬をみつめて。

 

星座。

星と星。

そのあいだ。

孤を描いて。

独り笑って。

混じり気もなく。

嬉しそうに。

楽しそうに。

 

糸になって。

絡まりもなく。

蟠りなく。

ただただ伸びて。

線のように。

千の夜に。

夜の線が。

孤を描いて。

孤り笑って。

人のように。

笑いながら。

結んでゆく。

 

夜の波が、

泡になって。

千の星と、

笑いながら。

ミルクのように。

スープになって。

気化のあわいで。

幾何と騒いで。

帰化の卵で。

月のような、

赤らめた顔。

 

負荷を掛けて。

深く呑んだ。

孵化を待って。

秋のなかで。

秋の宙で。

 

蛹のような。

千の夜に。

放たれていく。

廻りながら。

巡りながら。

揺らぎながら。

戯れのように。

笑いながら。

 

月の皺と、

千の夜が、

夜陰を暈し、

盲のように、

雨のように、

降り注いで、

孤を描いて、

独り笑って、

夜になって、

千のような、

線のように。

 

線のような、

千の夢が、

絡まらずに、

蟠りなく、

弧を描いた。

 

夢の中で、

千のあわいが、

線の淡いで、

線を結んで、

またここで、

いまもここで、

千のように。

千の夜に。

線になって。

孤を描いて。

夜の星で。

星の海で。

実を結んで。

海の星で。

身を結んで。

愛のように。

 

 

 

カラカラー

 

乾いた音が聴こえた。

目を開いた。

旅の終わりだ。

 

椅子が相変わらずフカフカだった。

ガラス戸の外から、乾いた音がした。

まだ、枯葉が風に吹かれていた。

風に吹かれて、乾いた音を出していた。

 

白い暖簾が、穏やかに揺れていた。

紺色の縞が、静かに靡いていた。

波のように、風に吹かれていた。

 

 

 

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