おはようございます。
いま、登別温泉にいます。
こっちにきて約2週間が経ちました。
なかなか愉しい日々を過ごしています。
部屋の窓の外には、山が見えます。
おとといぐらいから急に紅葉が色付いてきて、山が赤く染まりつつあります。
毎日山の情景に癒されています。
また、目の前には川も流れていて、部屋の中にいても、ずっと川のせせらぎが聴こえます。
今朝、軽いランニングをしたあとシャワー浴びて、窓の外の景色をすこし眺めていました。
明るくなった空に、月が残っていました。
赤い山と青い空に残った月を眺めていると、「今日もいい日になりそうだなぁ」と思いました。
それでは、今日は登別温泉の紅葉と共に貴方の幸福を願います。
寒さも増して体調を崩しやすい季節でもありますが、どうぞご自愛くださいませ。
何も無い場所だけれど
ここにしか咲かない花がある
心にくくりつけた荷物を
静かに降ろせる場所
『ここにしか咲かない花』 コブクロ
「目に見えないもの」について考えた。
白老にある『Cafe結』というところに来ていた。
半年前にこの辺を旅していたときにも寄ったカフェで、とても居心地が良かったのを覚えていた。
店のなかにはオーナーであろう凜とした雰囲気の女性と、制服をきた中学生ぐらいの男の子と女の子が一人ずついた。
黒い皮の椅子にすわった。
見た目はすこし硬そうなのに、すわってみると思ったりよりもお尻が沈み込んだ。
思ったよりもずっとフカフカで柔らかい椅子だった。
「目で見るだけじゃわからんことばっかりやな」とかなんとか思いながら、綺麗なしわのよった品のある佇まいのメニュー表を手に取った。
半年前に来たときは、ウポポイに行く予定だったけれど、そのときウポポイは休館日だった。
”行き当たりばったり”で行動して失敗することがよくあって、半年前も行き当たりばったりで行動して「失敗」した。
だけど本心ではそれを「失敗」だとはあまり思っていなくて、何事も行動しなきゃわからないことばかりなんだから、「とりあえずやってみる」ことが大事だ。
今もそう思っている。
ただ、「とりあえずやってみる」ことは大事だと今でも思っているけれど、それは「後先のことを考えなくてもいい」というわけではもちろんなくて、「先のことを考えて計画をたてて行動する」ことももちろん大事だ。
でも、僕の中には「とりあえずやってみる=行動」と「先のことを考える=思考」を分け過ぎる部分があって、”二者択一的な構造”にはまり込むことが結構ある。
自分のなかにあるやっかいな癖だ。
好ましい癖だとはとても思えないから、この癖をすこしずつ落としていこうと意識している。
二者択一的な思考から離れることを意識して生活している。
半年前の出来事を思い返したりしながら、半年前にもきた居心地の良いカフェで、自分のなかにある「悪い癖」がすこしは改善しただろうかと考えていた。
居心地の良いカフェのふかふかの椅子にすわって、自分と向き合ってみた。
ふかふかの椅子にすわってメニュー表を眺めていると、オーナーの女性がそばに寄ってきた。
彼女は「今日は中学生の二人が職業体験できているので、そのふたりに注文していただいてもいいですか?」と僕に言った。
制服を着たあのふたりはオーナーのお子さんだと、勝手に想像していた。
だけど、ちがった。
白いカッターシャツを着た男の子に「酵素玄米のおにぎりセット」と「ムーンミルク(豆乳)」を頼んだ。
男の子は緊張しているわけではなさそうだったけれど、どこか動きがかたかった。
注文をおえると、”ちょっとかたい感じ”で「ありがとうございます」と男の子が言って、ぼくも「ありがとうございます」と返した。
“ちょっとかたい感じ”で、「ありがとうございます」と返した。
ふかふかの椅子のすぐ隣には本棚があった
しばらく本棚を眺めた。
しばらく眺めて、なんとなく一つの本にピンとくるものがあった。
Dayaさんという人が書いた『日常のなかのワールドワーク』という本。
「葛藤にみる希望と勇気」という副題になんとなくピンときて、「茶色の落ち葉」の装丁にもなんとなく惹かれるものがった。
パラパラとめくってみた。
フォトエッセイだった。
アーノルド・ミンデルという心理学者が唱えたプロセスワークを、自身の体験を踏まえて”柔らかい言葉”で紹介していた。
やわらかい言葉と、あたたかい画だった。
しばらくパラパラとページを繰っていると、なぜか『星の王子さま』の有名なフレーズがあたまに浮かんだ。
「大切なものは、目に見えない」
ふと、あたまに浮かんだ。
このフレーズがあたまに浮かんだとき、「何か」の気配をかんじた。
お店の外から”カラカラー”という音がしてきた。
ハッとした。
お店の玄関には、引き戸の透明なガラスの扉があった。
透明なガラスの扉のむこうで、白と紺の縞模様の「暖簾」が風におされて反り返っていた。
何にも同じることのないような、優雅なうごきだった。
何にも同じることのないような暖簾の向こうに、アスファルトの道路があった。
車通りのほとんどないアスファルトの道路の隅っこで、落ち葉が風に吹かれていた。
茶色い落ち葉が風に吹かれてアスファルトのうえを転がって、”カラカラー”と、擦れるような音を響かせていた。
居心地の良いカフェに、神妙な気配が漂ってきた。
空は曇っていた。
「何か」に気づきを促された。
そう感じた。
フカフカの椅子のうえで「何か」を諭されているような感覚になった。
すこし息をとめた。
息をとめて、目を瞑った。
目を瞑って、意識の微細な領域に入っていった。
旅のはじまり。
秋の風。
乾いた香り。
やわらかい肌。
麦のような。
木枯らしのような。
茶色の感触。
肌色の温度。
掌。
手のひら。
指の関節。
骨の分節。
指紋の凹凸。
指先の曲線。
曲線。
緩やかに。
しなやかに。
弓のように。
闇の中で。
息を潜めて。
秋に留まり。
冬をみつめて。
星座。
星と星。
そのあいだ。
孤を描いて。
独り笑って。
混じり気もなく。
嬉しそうに。
楽しそうに。
糸になって。
絡まりもなく。
蟠りなく。
ただただ伸びて。
線のように。
千の夜に。
夜の線が。
孤を描いて。
孤り笑って。
人のように。
笑いながら。
結んでゆく。
夜の波が、
泡になって。
千の星と、
笑いながら。
ミルクのように。
スープになって。
気化のあわいで。
幾何と騒いで。
帰化の卵で。
月のような、
赤らめた顔。
負荷を掛けて。
深く呑んだ。
孵化を待って。
秋のなかで。
秋の宙で。
蛹のような。
千の夜に。
放たれていく。
廻りながら。
巡りながら。
揺らぎながら。
戯れのように。
笑いながら。
月の皺と、
千の夜が、
夜陰を暈し、
盲のように、
雨のように、
降り注いで、
孤を描いて、
独り笑って、
夜になって、
千のような、
線のように。
線のような、
千の夢が、
絡まらずに、
蟠りなく、
弧を描いた。
夢の中で、
千のあわいが、
線の淡いで、
線を結んで、
またここで、
いまもここで、
千のように。
千の夜に。
線になって。
孤を描いて。
夜の星で。
星の海で。
実を結んで。
海の星で。
身を結んで。
愛のように。
カラカラー
乾いた音が聴こえた。
目を開いた。
旅の終わりだ。
椅子が相変わらずフカフカだった。
ガラス戸の外から、乾いた音がした。
まだ、枯葉が風に吹かれていた。
風に吹かれて、乾いた音を出していた。
白い暖簾が、穏やかに揺れていた。
紺色の縞が、静かに靡いていた。
波のように、風に吹かれていた。