帰りの海

 

 

 

「順番」はちがっても、なんとかなる。

 

 

 

五島美術館の門をくぐった。

門をくぐったとき、消防で働いていたときに予防査察で訪れた「寺」のことを思い出した。

 

隊長と査察を終えたあと、近くに止めていた消防車に向かって歩いていた。

それは「帰り道」だった。

二人で鳴り響く蝉の鳴き声を聴きながら、「でけー寺やなぁ」とかなんとか言いながらくくぐった門。

その門の先には、「帰りの方向」から見ると海が見えた。

 
 
消毒と体温検査を済ませてチケットを買った。

学生証を忘れたので大人料金の千円だった。

「近々学生証の更新に行かなきゃなぁ」と思いながら庭園の入り口を眺めた。

 
 
気づくと「展示室2」の方向に歩いていた。

たぶん”順番が違う”けれど、まぁいいやと思って源氏物語の世界に浸ることにした。

「源氏小鏡」という連歌師が持ち歩いていた「物語の手引き」のようなものがあって、その装丁が良かった。

MacBookにシールを張るみたいな感覚だったんじゃないかなぁと思った。

 

「写す」という行為の普遍性は、寺の門に収まっていた「海」みたいだとおもった。

多くの人が眺めたあの海には、いろんな人の思いが詰まってる。

思いが写され、受け継がれてきた「物語」としての海。

その物語の波は、今でもずっと揺らめいているのだろう。

 

展示室を出て、源氏物語の世界観が頭のなかを駆け巡ったままカメラを片手に庭園を歩いた。

木々が騒めいている。

きのうの雨の残りが地面を湿らせていて、春の日差しがそれを乾かしていた。

 

 

 

 

 

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