スタバから出て、近くのやよい軒にいった。
10時過ぎだった。
那須味噌と焼き魚の定食を、ガラガラの店内で食べながら窓の外を眺めていた。
「大名行列」という言葉が頭に浮かんだ。
近所の大学の学生たちが列をなして隙間なく歩いていた。
窓の向こうでゆらゆら動く人の波を見ながら味噌汁を啜っていると、奇妙な気分になった。
もち麦ご飯と冷奴と焼き鯖とみそ汁をゆっくり「よく噛んで」食べていた。
でも、那須味噌を食べると、急に箸が速く進み始めた。
不自然に濃い味がするものを口に入れると、体のリズムが早くなる。
ナスが口の中が一瞬でジュワッと溶けていく。
味噌の余韻がガバーっと押し寄せてきて、その押し寄せる波に面食らった右腕が、慌ててみそ汁の静かな海面に飛び込んでいく。
食べ終わって、店を出ることにした。
那須味噌の余韻が残ったまま、足早に出入り口の自動ドアを跨いだ。
呼気を長くして気分を落ち着けながら、「大名行列」に合流した。
「そうか、そういえばオレも大学生だった」と思いながら、列の中で歩みを進める。
「身分」は一応大学生なのだ。
道路の右側には都市高速が並立している。
高架下に行き交う車のリズムと行列のリズムが交差している。
車が不規則かつ一定の間隔で通過するリズムは、やはり那須味噌だ。
だがこの行列のリズムはもち麦ご飯にはほど遠い。
強いて言うならハイチュウだろう。
グレープ味のハイチュウ。
行列の前方の学生たちが左手の建物に入っていく。
オレは直進。
あの分岐で流れが崩れる、と予測。
分岐に差し掛かった。
隣の粒が弾けていく。
行列がジュワッと溶ける。
まっすぐ前方に抜け出す。
行列が再圧縮をかけて、元に戻った。
公園のベンチに座って『ファウスト』を読んだ。
少し遠くから、スケートボードがアスファルトに擦れる音がする。
途中ふと、「えっと、オレは何者だったっけ?」と30秒くらい真剣に考えていた。
目の前を黄緑のメッシュのビブスを着た幼稚園児たちが歩いている。
文脈はわからなかったけれど、「お化け屋敷に入るの?」と男の子が先生に問いかけていた。
かわいい行列だった。次はこっちに混じってみたいなぁと思った。
自分が何者かはさておき、今はこの生活を噛み締めようと思った。
ゆっくり、よく噛んで、今を生きようと思った。