(7) パターン化

 

 

 

真のあらわれを楽しめ、

厳粛な遊戯を楽しめ。

凡そ生きているものは一ではなく、

常にそれは多である。

『神と世界』 ゲーテ

 

 

 

午前9時過ぎ。ホテルのカフェラウンジでコーヒーを飲んでいた。『Libraly&Cafe BLOSSOM COFFEE』というところ。

 

洞爺湖のゲストハウスで目を覚ましたあと、ひと仕事できるような場所を探していた。コーヒーが飲みたい気分だった。

Googleマップに「カフェ・喫茶」と入力して、気になったところをタップした。

星の数が5個のブックカフェがあった。5つ星ではない。他のカフェに比べると評価されていないという意味だ。評価されている数がすくないという意味だ。

星の数が少ない5つ星。少ないのに、5つ星。

5つに並んだ星が、なんだか面白かった。

 

5つの星の下の、そのまた下の方に載っていたホームページのリンクをタップした。5つの星のページを、もうすこし奥まで進んだ。

ホテルのカフェラウンジだということがわかった。364冊の本を置いているみたいだ。

「今月のおすすめの本」が載っていた。松浦弥太郎さんの『おとなのまんなか』という本だった。

 

「ここにしよう」と明確に思ったわけでもなく、「なんとなくここだ」とぼんやり思ったわけでもなく、そこに行くことになった。

理由はわからないけれど、そこに行くことになった。

 

久しぶりの感覚だった。そこに行くと、久しぶりの感覚になった。

じぶんの感覚を下手に操作しなくても、ほぼそのままの感覚で心地いいと感じられる場所だった。

 

大きな窓からたくさんの光が差し込んでいた。洞爺湖の雪景色が広がっていた。「洞爺湖ブルー」が売りのカフェらしかったが、たしかにこれはいいと思った。

最初、窓に近い席に座ってカウンターまで注文しにいった。

注文したあと、席にもどろうとして歩いていた。歩いていると、奥にある本棚に囲まれた席が目に入った。「あっちの方が良さそうだな」とおもった。

 

席を移動した。

本に囲まれながら本を読んだ。さっきiPhoneの画面でみていた松浦弥太郎さんの『おとなのまんなか』をパラパラとめくっていた。今月のおすすめを読んでいた。
 

今月のおすすめを読みながら、「この人は自分に似ている」と思った。

 

ぼくはなんだかいつも「何かに似ている人」や「何かに似ているもの」を探しているみたいだ。

探しているというか、そういうものに何かが反応する。

「似ている」という感覚に、ハマっているのだろうか。

 

「似ているから何?」と思うこともよくある。

「似ているから何?」と思って、「別に何になるわけでもないのかな」と思う。

何になるわけでもないけれど、それを見つけること自体が面白いのだろうか。

いや、それもちがう。

 

目の前にあるものが宇宙の相似形で、宇宙のパターン、宇宙の模様がそこに現れている。

そう思えることがある。

 

相似。

 

同じというには無理があり、別というのも無理がある。

同じじゃなくて、別でもないような、そんなもの。

同じじゃなくて、別でもないような、そんな生活。

そんな生活模様。

 

パターン化された生活。

固定化というとつまらなく思えるけれど、色んな模様を眺められるから、たのしい。

同じようなパターンなのに、同じではない。何かが、ちょっとちがう気がする。

ちょっとちがう気がするから、飽きないのだろうか。

 

 
「どうして364冊なんだろう?」

 

 

ふと思った。

ここにある本の数が365冊じゃないのは、「ちょっと足りない」ぐらいがちょうどいいからだろうか。

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