Stars In Your Eyes

2022.09.12 

 

 

夜、寝室のクローゼットの前にほったらかしていた洗濯物を畳みながらYouTubeMusicをランダムに流しているとKan Sanoの『Stars In Your Eyes』が流れてきた。

消灯している薄暗い寝室で洗濯物をまさぐる手。

顔を上げた。

PCのある灯りのついたリビングの方に向けて。

「わっ…」

と思った。

一瞬にしてこの”音の連なり”に惹き込まれた。

 

体を前後に揺すりはじめた。

体をゆらゆらしながら洗濯物を畳んでいると、さっきまでとは部屋の景色が違うものになってきた。

机の上のデスクライトが街のネオンライトみたいにみえてくる。

車で夜の都会を走るみたいな感覚になってきた。

夜の街に並んだ色んな店を、後部座席の窓から眺めているみたいだ。

後方に通り過ぎていく景色をボーッと眺めるみたいにKan Sanoの音を浴びた。

 

朝刊の時間になった。

店の作業場について配達の準備をする。

右耳にはめたイヤホンからは『Stars In Your Eyes』が流れている。

「リピート再生」の設定。

 

バイト仲間が次々に作業場に到着。

すこし高揚した気分のまま、「おはよう」と挨拶をかわした。

新聞を積んだトラックが店に到着するまでのあいだ、仲間と談笑する。

仲間と話をしているあいだ、イヤホンはポケットにしまっておいた。

 

この店の学生のなかでイヤホンをはめているのはぼくともう一人の学生だけだ。

この夏からイヤホンが「許可制」になった。

ひと月の不着(配達ミス)が2件以内の者だけ、イヤホンをはめることが許される。

 

道路交通法、あるいは東京都の条例では、運転に支障の出る行為は「禁止」されている。

両耳イヤホンはアウトだ。

しかし、片耳イヤホンはアウトになってない。

ただ、セーフにもなってない。

いわゆる「グレーゾーン」だ。

いや、「グレーゾーン」というのも勝手な解釈だろう。

法律は「沈黙」を貫いている。

 

新聞が店に到着して、作業台で折込チラシを新聞紙に挟み込む。

再びイヤホンをはめた。ぼくは音楽を「許可」されながら聴いているのだろうか、と考える。

音楽を聴くことを許されている? 

許されているから聴いているのか?

誰に許されている?

誰?

あなたは誰ですか?

 

イヤホンをはめてない耳から、みんながチラシを入れていく音が聞こえる。

それなりの規則をもった音たち。

パサッ、パサッ。

夜の静けさと人間の手作業による秩序の空間。

ぼくはその作業場の空間と『Stars In Your Eyes』の音楽の空間のあいだに立っていた。

あいだにたって、揺らいでいた。

 

 

Do you remember? Still remember?

ニューソウルが響く もう一度君の歌で

 

 

いつもよりすこし大袈裟に体を揺すって作業を進めた。

静かな作業場は、いつも通り沈黙していた。

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